通常、塩分を多く含む海水が氷になるためには、真水が凍る0℃よりも低い-1.8℃以下にならないと凍りません。しかも海の水は深さによって水温が異なり、海流が生まれて絶えず動いているため-1.8℃以下になっても凍りにくいのです。
しかし、オホーツク海には、中国とロシアの国境付近を流れている巨大なアムール川から真水が流れ込んでいる場所があります。このアムール川の水が海水と完全に混ざりきる前に、北からの風によって急激に冷やされ表面から凍り始めます。
これがオホーツク海で流氷が出来る特別な仕組みなのです。
流氷の移動パターンには決まった経路があるわけではありません。氷が生まれる冷たい西高東低の気圧配置の北風が強く吹く場合には、流氷は北海道周辺に多く流されてきます。
反対に、温かい風を運ぶ南風に流されると流氷も北海道まで到達できなかったり、沖のほうへとながされてしまいます。ですから寒い冬に多く流氷を見ることが出来るのは、寒さのためというよりは、北風のおかげなのです。
年々オホーツク海に到着する流氷は減少の一途をたどっています。地球温暖化の影響によりアムール川から作られる氷の厚さも薄くなってきており、北海道に到達しても氷が僅かであったり、期間が短かったり、少なからず温暖化の影響が垣間見えます。
栄養と酸素の豊富な冷たい水を運んでくる流氷が少なくなると、水温差による海水の移動も少なくなり、現在の生態系へさまざまな影響を及ぼします。
またオホーツク海の流氷が減少することにより、普段、オホーツク海の流氷の上で繁殖活動を行っていたゴマフアザラシの群れが日本海側に現れるなど、生態系に変化も現れています。
野生動物の観察は流氷ツアーの中でも人気メニューになっていますが、流氷が作り出す生態系が崩れてしまえば野生動物たちの中には絶滅ししまうものが出てくる可能性があります。
ですから、温暖化によって流氷が少なくなるということは、美しい景色がなくなるだけでなく生態系にも大きな影響が現れてしまうのです。
流氷が引き上げ運んでくる深海の海水には酸素やミネラルなどの栄養が豊富に含まれ、クリオネヤオキアミなどの極小生物が生息しています。
これらをエサにしている小魚やクジラがあつまり、小魚を食べるアザラシなどが流氷の周りを餌場にして集まり子育てをします。
さらに、アザラシなどの動物は白熊、大鷲などのえさになります。こういった寒い海の生態系には、餌場としても子育ての場としても流氷が欠かせない存在なのです。
北海道で流氷を見ることが出来るのは、紋別や網走、知床などの地域です。
特に紋別では、流れ着いた流氷が岸で固く凍りつき、これを砕いて走る砕氷船での流氷観光ツアーは大変人気があり、毎年全国各地から沢山の人が訪れています。
また、風や海流の流れによっては、根室、宗谷岬沿岸でも見ることが出来る場合もありますが、年々少なくなっています。
流氷が北海道沿岸に流れ着くのは、2月初旬から3月下旬の寒い季節です。流氷は風に乗って海の上を進んでくるため、風の向きや強さによっては同じ時期に北海道を訪れても見ることが出来ない場合もあります。
そんな観光客の為に、北海道のあちこちでは自治体などによる流氷情報が配信されています。流氷の量や状態をチェックしておくと見たい風景に出会えるかもしれませんよ。
流氷を見てみたいという人は、紋別の流氷科学センターなどで知ることが出来る、流氷の漂着情報や砕氷船で沿岸から沖の方まで様々な自然の姿を体感しながら見るのも良いでしょう。
運がよければ流氷の上で休んでいるアザラシやペンギンの姿を見ることが出来るかもしれません。また、流氷の楽しみ方として最も神秘的でお勧めなのが、オーロラと流氷を見ることの出来るツアーや流氷の下の世界をのぞくことが出来るダイビングツアーなどです。
ダイビングでは見の前で流氷の天使といわれているクリオネを見ることが出来るかもしれません。